ねこにごはん【完】

猫の顔が印刷された蓋を開ければ、大好きな玉子焼きが入っていることに喜びの声を上げる拓実くん。
箸を持ったまま手を合わせいただきますをするなり、早速と言わんばかりに黄色いふわふわのそれを口に運んでいた。


「やっぱり佳苗の玉子焼きおいし~!」
「じゃあ今度もっといっぱい入れてこようか?」
「やったあ。じゃあ今度お礼にデートでアイス奢るねぇ」


すりすりと猫のように肩を擦り合わせてくる拓実くん。
私がお弁当を食べる手をとめて頭を撫でてやると、拓実くんはふやけた笑い声を漏らした。

母性本能をくすぐられた私はやんわりと表情を綻ばせる。
拓実くんには悪いけど、どうしてもカッコイイって言葉より可愛いって言葉が似合うんだよなぁ。
スポーツマンはイケメン度が増すと聞くけれど、拓実くんはサッカーをしている時ですら愛くるしいと感じてしまう。

今度友達を誘って試合の応援に行ってみようかな、なんてことを考えながらふと目をやった先の花壇は生憎の殺風景だったけれど、その近くにある樹木の紅葉は私を温かな気持ちにさせてくれた。


「か~な~え~」
「なあに?」
「好き」
「うん」
「佳苗は?」
「言わなくても分かってるくせに」
「えへへ~」


寄り添った私達は互いに幸せなひと時を噛み締めた。
冬がやってきてもこの関係が終わることはない。

桜が咲き誇る春になったら、またこのベンチに並んで腰掛け、お揃いのお弁当箱を手に笑い合うんだ。



【おしまい】