「やべ、次教室移動だ」


慌てて小走りになる奈良くんの後ろ姿から視線を移動させた私の目に映ったのは、大きな黄色い花を咲かせたヒマワリ。
ふと、前に図書室で見つけた花の図鑑に載っていた記述を思い出す。
ヒマワリの名の由来は、太陽の動きに合わせて花が回るといわれたことから、と書かれていた。

なんだかそれを考えると、私ってヒマワリのようだ、なんて笑いを零してしまう。
私がヒマワリだとしたら、惹きつける魅力を持っている太陽役は間違いなく彼だ。

ーーそう、私はある人物を目で追う日々を続けていた。
断じてストーカーとかそういう物騒なことをしているわけではない。
ただ遠くから、その姿を見掛ける度に注意深く観察しているだけだ。

遡れば一年半くらい前のこととなる。
入学式の日、何気なく視線をやった先にいた男の子に私は心を奪われた。
当時は一年C組、今は二年A組の菊地原拓実(きくちはらたくみ)くん。

まるで猫が人間に化けたような少年、それが私が彼へ抱いた第一印象だった。