「ボクは猫じゃないよ!」


大声でそう叫んだ彼が今にも泣きそうな顔をしているものだから、私は胸が圧迫される。

天気がイマイチなせいか幸い周囲には他の生徒がいなくて、注目を浴びることはなかった。
その代わり、菊地原くんの苦痛を訴える視線が全身に突き刺さる。
愕然とする私をよそに身を翻した菊地原くんの背中がどんどん小さくなっていく。

追いかけることはできなかった。追いかける資格なんてないと思ったから。
私はゆっくりとしゃがみ込んで、中身をぶちまけられたお弁当箱を手にとる。

これどうしよう。放っておけば土に帰るんだろうけど日数はかかるだろうから、ちゃんと後始末した方がいいよね。ここ芝生の上だし。
そんなことを冷静に考えていたら、タイミング悪く雨が降ってきた。

幼少の頃、雨は空が泣いている時の涙だと絵本で見たことがある。
私の分も泣いてくれているのかな、だなんて自嘲気味に笑ってしまった。

雨音が耳障りだ。