「えへへ。西山くん、西山くんすきー」
最大級の幸せを噛みしめるようにそう言えば、回された手に力がこもる。
こちらも手を肩に伸ばそうとしたけれど残念ながら届かなかったので、渋々腰当たりをぎゅーっと抱き締めた。
「…………凪」
「なにー?」
「…………キス、したい」
「はっ」
事前に予告されることが、ここまで羞恥心を煽るだなんて思いもしなかった。
顔が西山くんの胸にすっぽり隠されていてよかったと安堵する間もなく、当然肩を掴まれ身体を引き離された。
すっかり赤く染まった顔が表に曝け出される。
追い打ちをかけるように西山くんが腰を屈めて顔を覗き込んでくる。
慌てて顔を俯かせようとしたが、顎を掬われたことによりそれは失敗に終わった。
「に、西山くん」
「…………赤い」
「赤くもなりますわな!」
半ば自棄になり声を上げれば、ビー玉くらいの大きな目を見開いて。
そのあと嬉しそうに笑みを零す。
「西山くん!やっぱり笑った顔のが断然格好いいっすね!」
そう無意識のうちに声を張り上げれば、少し考え込んだすえに耳元に顔を寄せてくる。
耳にあたる息がくすぐったくて肩を竦める。
「…………――なら」
「え?」
そこで言葉を中断させて、再度向かい合ってくる。
目の前には、いつも通りの西山くん。
だけどその顔には、些細な優しさを帯びている。
顔を上げられて、次の瞬間には見えていた教室の景色が西山くんの顔によって消され。
ゆっくりと瞼を下ろせば、小さく言葉を囁かれて。
静かに、唇が合わさった。
「に、西山くん。今の言葉をもっかいお願いします!」
「…………嫌」
「やだやだお願い、さっきはちゃんと心の準備してなかったんだもん。今度は耳を澄ませて聞くから!」
「…………嫌」
「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」
「…………」
「(ああっ、無口になってしまった!)」
「…………」
「えーっと、じゃあどうしよう……」
「…………」
「あっあのね、今日の今日こそは甘めの玉子焼き沢山作ってきたんだ!楽しみにしててね!」
「…………凪。キス」
「どひー――っ」
「…………キス、する」
「(キス魔!?もしや西山くん隠れキス魔だったりする!?)」

