毎朝4時半に起床。
2人分のお弁当を作って、丁寧にお弁当箱を包む。
タコさんウインナーに自身特製甘い玉子焼き、あとはうさぎ型の林檎。
全てが彼の大好物で埋め尽くされている。
(うさぎさん林檎は好きかどうかは定かではないが、私の好きなものである故彼もきっと好きなはず。)
仏頂面の彼の表情が微かに緩むところを想像しては、たちまち自分の頬が緩んできてしまう。こりゃいかん。
ぺしぺし頬を叩いて気を引き締め、包みを崩さないように鞄の中に入れる。
「さてとっ」
今日もあいつに、会いに行くとしますか。
玄関の扉を開けて早速視界に映るは、愛しい愛しい彼の姿。
うちは一軒家である故、柵の向こうで壁に軽く寄り掛かる体で立っていた。
戸の開いた音に反応して、彼は眠たそうに欠伸をした後瞼を上げる。
ゆっくりとした、スローモーションの如くその動作がまた艶っぽい。
ドキドキ朝からフル回転する心臓を抑え込みつつ、駆け足で彼の側まで行く。
「西山くんっ、おは」
「…………遅い」
「ごめん今日はちょっと2度寝しちゃって。西山くんおは」
「…………早く起きなよ」
「明日から頑張るね。それより西山くん、おはよう」
「…………」
「あ、ちょ、ちょっと待って……わわっ」
そう慌てて後ろから声を掛けるも空しく、西山くんはひとり先に歩き始める。
追い掛けようとした矢先、髪が柵に引っ掛かり身動きを阻まれた。
ようやく絡みを解けて顔を上げたとき、西山くんの後ろ姿はすでに100m先にあった。
あぁ。足が長いから、歩くのも早いんだ。
(……今日も不機嫌、か)
これが、日常的なやりとり。
今日のはまだましな方とも言える。
酷いときは完全無視だからな。
同じような日々が繰り返し半年以上続けば、さすがに対応する側としても慣れというものが身体に染み付いているものだ。
考えてみれば、今日はまだ機嫌のいい方かな。
そんなちっぽけとも言えないような幸せに再び頬を緩ませ、駆け足で西山くんの背中を追い掛けた。