カダ王国の北に位置するルアン王国は、冬には死者が何人も出る寒さの厳しい国だった。

紅葉ノ月ノ中旬という、まだ諸国ではそんなに寒くない時期でも、すでに雪降ノ月ノ初旬の寒さだった。雪こそまだ降りはしないものの、もう二、三十日したら初雪が降るだろう。

そうなったら、ルアンは他国より一足早く冬に入る。それでも、南部はまだマシな方だった。北部ではすでに枯れ落ちているであろう木の葉も、まだ赤や黄色の彩りを保っている。

カダとルアンの国境を越え、シンという街に入りタリアがまずしたことは、ラファルの衣を売り、麻の衣を彼に着せることだった。

品の良い綿の衣はどうしても人目につき、狙われやすい。髪も平民の子がそうするように、きちんと丸めて結ってやり、布をかぶせてやった。

「はい、これでいいよ」

裏通りで、すっかり平民らしくなったラファルに、タリアは言った。

「なかなか似合うじゃないか」

ラファルは自分の姿を見下ろして珍しいものを見つけたように、目をぱちくりさせた。年より大人なのかと思ったが、こう言うところはまだ子供らしい。

「あんた、年いくつだい」

タリアが訊くと、ラファルはわずかにうつむいて、

「……十」

と、答えた。
十歳か。あの少女と同じくらいかな。十歳にしては、ラファルは随分落ち着いている。