タリアの傷は、三十という年齢にそぐわない速さでふさがり、イチを驚かせた。

「相変わらず速いけどな、中年だってこと覚えとけよ?しばらく無理は禁物だからな」

布をかえてやりながら、イチは半ば呆れ気味に言った。昔からタリアは傷の治りがとてつもなく速くて、イチは治療しながら毎度のように驚いている。幼い頃から傷付けられているおかげだろう。

その二日後にはもとの速さで剣を動かせるようになり、いよいよ、ラファルの剣術稽古が始まった。

まずは、剣を使わない、武術の基本中の基本の型を教えた。体と呼吸を使って、突や蹴りの速さや強さを加減し、右手を使っている時は左手で急所を守るなど、武人なら誰もが教わることだ。無論タリアも、剣術を習い始めた四、五歳の時に教わっている。

ひとりで出来るよう工夫されてもいるので、タリアが少し席を外している間も、ラファルはずっと一連の動作を繰り返していた。

タリアは厳しかったが決して無理をさせず、ラファルの動きが乱れ始める少し前に休ませてくれる。疲れた状態で練習を積んでも、たまるのは疲れだけだからだ。

疲れると気持ちを集中出来なくなる。それに、体が発する危険信号にも気付かなくなるので、命取りにもなる。

ラファルはまだ子供。体がまだ出来上がっていないため、無理をさせるわけにはいかなかった。