「……大丈夫か?」

「あぁ。…ずっと書庫をあさっているからね」

タガヤはふう、とため息をつき、訊き返した。

「オウノは、大丈夫なのか?」

「まだ意識が戻らなくて、帝はやきもきしておられるよ。帝にご報告できるのは、彼だけだからな」

「そうか」

川の流れを見つめるタガヤの瞳が、悲しそうに揺らいだ。

「…<陰ノ宮ノ妃>様が、亡くなられた」

それは、ユゼルもすでに知っていたので、黙って頷いた。

「皇子を……なるべく早く、お助けしてくれ」

「分かっている。けど…こちらも色々と、大変でね」

「こっちでも、あれに害はないと説明はしているけど、納得してくれそうにない」

「当たり前といえば当たり前だな。それが帝ってもんだ」

ユゼルが言うと、タガヤは、彼にしてはだらしなく橋にもたれた。

「書物によれば、過去にも何度かこのようなことが起きている。助かっている者もいる。しかし、どのようにして助かったのかが記されていないのだ。……あるとすれば」

「<秘書庫>…か」

秘書庫、というのは、帝と、帝が許した者のみが入ることができる、この国の歴史や神話、政などがしるされた書物がある書庫のことだ。それには所謂、知られては困るもの、国の汚い面が書かれている。