ザザァ…

この川は、カダ王国の山脈がわき出た水が川となり、やがては千近くもの支流を従える大河となる。

ここ数日ほど続いた雨で、水量が増し流れも悪く、あまり足を踏み入れたくない状態だが、この際我が儘は言っていられない。タリアはしゃがんで、荷袋から取り出した縄で、自分の腰と少年の腰をつないだ。

「もう少しだから辛抱おし。しっかり歩くんだよ」

そう言って、川に足を踏み入れる。女にしては背の高いタリアの腰辺りまでくる川の水は、押し流す力が強く、足を踏ん張らないと連れ去られかねない。こんな所にこの少年が入ったら、間違いなく流される。

頭でそう思うよりも早く、タリアは川岸で立ちすくんでいた少年をひょいっ、と背負い上げた。

驚いて身を固くする少年の手をしっかりと自分の首に絡ませ、一歩一歩、慎重に歩みを進める。一度足をとられたら、子供を背負ったこの状態で体勢を立て直せるか分からない。

わすかながら、首に回された手に、力が込められるのを感じた。普通なら子供が不安がっていたら、"大丈夫だよ"と気の利いた言葉をかけるものなのだろうが、タリアはそうはせず、少年の手を軽く叩くにとどめた。