聖魔の想い人

生えている植物をしげしげと眺めたり、イチがそれは食べられるよ、と言うと口に入れたりして、ラファルは林を楽しんでいる。

「イチは、いつもここで薬草をとってるの?」

「うん、天気がいい日はね。何しろ家畜の世話も畑仕事もなにもする必要ないから、ヒマでね」

「林で暮らそうとは思わなかった?」

「いや、気付いた時にはこんな生活してたし。自分にはこれが最善の生活なんだって思えたからな」

「ふぅん…」

ラファルは納得したのかしないのか、そう呟いたが、からかうようにつけたした。

「あそこにいなきゃ、タリアと会えなかったもんね」

イチは咄嗟に返す言葉を失った。数瞬、言葉が出てくるのを待ち、それからすうっ、と息を吸って、

「それ、タリアには言うなよ」

とだけ言って、先にさっさと歩き出してしまった。ラファルがそのあとを小走りについて行く。

あんなことをタリアの前で言われたら、タリアはしばらく帰って来ないだろう。それは出来れば避けたい道だった。ラファルは多分、分かっていると思うけど。

「その薬草、どこに売りに行くの?」

イチが腰から提げている籠の中を覗き込んで、ラファルが訊いた。

「紅葉ノ月下旬と、花咲ノ月中旬に、ヨルサって街で市が開かれるんだ。そこに売りに行くと、結構いい値で買ってくれてね。…そうだ。秋の市はもうすぐだから連れて行ってやろう。それまでには、タリアの糸も抜けるだろうから」