イチが言った時、人の話し声に反応したのか、ラファルがもぞもぞ、と身動きし身を起こした。

眠そうに目をこすり、イチとタリアを交互に見つめ、タリアが起きているのを見ると、今にも泣きそうな顔をした。

「この子はなかなか根性あるぞ。お前のことを背負って五キリアも歩いて来たんだとさ」

「……そう」

イチの隣で、心配そうにタリアを覗き込んでいるラファルに微笑んでやると、イチが脇にあった木の碗をとり、タリアの口元にあてがった。

「薬温だよ。体に残ってる毒を追い出してくれる」

温かい薬温は、かわいた喉に心地よく、するりと、喉の緊張をほぐしてくれた。

「…大丈夫だよラファル。そんな顔しなくても」

唇を震わせるラファルを、宥めるようにイチが言った。ラファルは、くっと頷いて、泣くまいと唾を飲み込んだ。

「追っ手の気配は…ないのか?」

「今のところは。まぁ、こんな所に家があるなんて、誰も思わないだろうがね」

イチがタリアから顔をそらすと、入れ替わるようにラファルが覗き込んできた。

「……大丈夫?」

心配で心配で仕方ない、というように、声を震わせて訊くラファルの頭を、自分でもじれったくなるほど緩弛な動作で手を上げ、そっ、と撫でてやる。

「大丈夫だよ。……すまないが、もう少し寝かせてくれ」

「あぁ、確かに、まだ少し寝てた方がいいな」

イチは微笑んで、タリアに毛布をかけてくれた。タリアは実に久しぶりに、本当に安心して、深い眠りについた。