聖魔の想い人

トサカの興奮ぎみに語る声に、壁に寄りかかったタリアは軽くため息をこぼした。

「彼女が剣をひと振りすれば、五人いた衛兵がみんなすっ転んでたよ。しかもみんな急所を外して峰打ちだった。素晴らしい人だろう?あんたもその内わかるさ」

「……強いのか?」

「あったりめェよ。あんたが何で彼女に同行してるのかは知らねぇが、彼女のそばにいれば必ず彼女の剣さばきをおがめるぜ。そこらの包丁さばきと一緒にすんなよ?」

「その辺にしときなよ。それ以上この子を疲れさせないどくれ」

タリアに言われ、トサカは口を閉じた。まだ何か話したそうだった。

「ほらラファル。少し寝な。これから六時間は歩くからね」

「おや、家に帰るんで?」

「あぁ、仕事帰りだよ」

ラファルは、汚れた布団に横になることを嫌がり、しばらき強情を張って腕をつっぱていたが、やがて眠気に負け体を横たえた。それを見ていたトサカは苦笑はしたものの、怒ったりはしなかった。

「じゃ、俺は仕事に行きますんで」

「あぁ、ありがとう。帰って来た時はいないかな」

「道中、お気をつけて」

トサカがいなくなり一気に静まり返った家の中に、小さな寝息が聞こえ始めるのに、そう時間はかからなかった。よほど疲れていたのか、ラファルはすぐに、深い眠りについた。