「街を発つ前に、どこかで休もうか」
「……すまない」
「いいって。ここは何かと、知り合いが多いところだから」
気のせいではなく、ふらふらと揺れるラファルの腕をひっぱって、タリアは賑やかな表通りをぬけ店の下働きとして雇われている者が暮らす、小さな家がひしめきあっている場所へやってきた。
今は秋なのでそれほど酷くはないが、夏は汚濁の臭いがひどい。ラファルが、わずかに顔をしかめた。
「ここなら、しばらく寝かせてもらえるよ」
タリアは、古い今にも崩れそうな小屋のひとつの扉を叩いた。中から、あいよ、とも、おおよ、ともとれる低いしゃがれた声がし、扉が開けられた。
出てきたのは、中年の痩せこけた小柄な男だった。この辺に住む者がみんなそうするように、つぎはぎだらけのボロボロの服を着て、髪を布で包むのではなく、ひとつに結っている。カギ鼻で、一見して恐ろしげな雰囲気の男だ。
その男の糸目が、タリアを見て大きく見開かれた。
「こりゃ…タリアさんじゃねぇですかい」
「トサカ、久しぶりだね」
「最近とんと姿を見せないもんだから、心配してたんですぜ」
男は言って、ふと、タリアの後ろに半ば隠れるようにして立っているラファルに目を向ける。
「タリアさん、いつの間にそんな大きな子もうけちまったんですかい」
真面目な男の発言に、タリアは苦笑する。
「この子は私の子じゃないよ。ちょっとわけありでね。しばらく、ここで休ませてやってくれないか」
「そりゃもちろん」
「ありがとう。ラファル、この人はトサカって言って、私の友人だよ」
「……すまない」
「いいって。ここは何かと、知り合いが多いところだから」
気のせいではなく、ふらふらと揺れるラファルの腕をひっぱって、タリアは賑やかな表通りをぬけ店の下働きとして雇われている者が暮らす、小さな家がひしめきあっている場所へやってきた。
今は秋なのでそれほど酷くはないが、夏は汚濁の臭いがひどい。ラファルが、わずかに顔をしかめた。
「ここなら、しばらく寝かせてもらえるよ」
タリアは、古い今にも崩れそうな小屋のひとつの扉を叩いた。中から、あいよ、とも、おおよ、ともとれる低いしゃがれた声がし、扉が開けられた。
出てきたのは、中年の痩せこけた小柄な男だった。この辺に住む者がみんなそうするように、つぎはぎだらけのボロボロの服を着て、髪を布で包むのではなく、ひとつに結っている。カギ鼻で、一見して恐ろしげな雰囲気の男だ。
その男の糸目が、タリアを見て大きく見開かれた。
「こりゃ…タリアさんじゃねぇですかい」
「トサカ、久しぶりだね」
「最近とんと姿を見せないもんだから、心配してたんですぜ」
男は言って、ふと、タリアの後ろに半ば隠れるようにして立っているラファルに目を向ける。
「タリアさん、いつの間にそんな大きな子もうけちまったんですかい」
真面目な男の発言に、タリアは苦笑する。
「この子は私の子じゃないよ。ちょっとわけありでね。しばらく、ここで休ませてやってくれないか」
「そりゃもちろん」
「ありがとう。ラファル、この人はトサカって言って、私の友人だよ」

