真っ暗で何も見えない。
そんな林の中を、何度も石につまづき、小枝に体中をひっかかれながらラファルは走っていた。

胸が締め付けられるようで息が出来ない。いつ立ち止まってしまうか分からない。それでも逃げなければならない。

体の底から、涙と一緒に込み上げてくるものを必死に奥歯をかみしめて我慢し、ラファルは走った。

背後からは、人々の叫び声やどなり声、犬の鳴き声、わずかにちらつく松明の灯りが迫ってくる。捕まったらおしまいだ。

殺されるー…

"「逃げなさいラファル。どこか遠くへ。誰の手も届かないような所へ」"

母はそう言って、ラファルを逃がしてくれた。母は無事だろうか。母も逃げてくれただろうか。

捕まってはいないだろうか。殺されては…

「ッ!!」

石につまづき、体が前に倒れる。転んだ瞬間、こめかみを石にぶつけ、おん…と頭に音が響き、意識が遠のく。

意識を手放さないようきつく歯をかみしめ、大きく息を吸った。空気を上手く飲み込めず、むせこみながらも後ろから迫ってくる音に急かされるように、再び立ち上がって走り出す。

口の中が切れたのか、血の味がした。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえ、耳の中でどく、どく、と脈うっている。

恐い…恐い…
逃げなきゃ…

まるで、その思いにしがみつくように、ラファルは闇の中を走って行った。