兄貴がミカエルになるとき

「じゃあ、行こうか」

幸ちゃんに促され、2人で並んで教室の戸口に向かうと、「マドンナとか言われていい気になってるんじゃないわよ」という、声が追いかけてきた。

その声を背に受けて、「てめぇ、いい加減絞めるぞ」と、幸っちゃんは小さい、けれどドスの利いた声でつぶやきながら、それでも笑みを浮かべて教室を出た。

子供の頃からの親友で、いとこでもある幸っちゃんは、私の秘密を唯一知る友達だ。

きれいでスタイルもいい上、おしゃれのセンスも抜群で、どこにいても目を引く幸ちゃん。

本来なら必要のない化粧をワケ有りで少々しているが、正統派の美形で、化粧で顔の70%以上を作り上げている“今時の可愛い”高校生とは一線を画する。
カラーリングなどしなくても、もともと亜麻色に近いしなやかな髪。

すっきりと大きめの瞳は澄んでいて、形のよい唇は、話すときも笑う時も魅惑的に形を変える。

まさに我が校のマドンナなのだけど、実は幸ちゃんはマドンナだけど、マドンナではない。

なぜなら幸っちゃんは「幸子」でも「幸恵」でも「さゆり」でもなく、”幸男”なのである。

そう、戸籍上の性別は女子ではなくて、男子なのだ。