結局、トオ兄の気迫のおかげで、私はその後5回ほどのウォーキングでなんとかティムさんからオーケーをもらった。

「バランス感覚も筋力もあるからもう少しヒールに慣れなさい。あとはその体に誇りをもって。自分がどんな風に歩いているかをイメージできるように、自分の動きを鏡でチェックすること。あとはプラクティス、プラクティス、プラクティス! よ」

私はようやくその日のレッスンから解放された。

そしてトオ兄は、その後結局オカマの聖地、新宿3丁目へと引きずられていった。

4月になってチャードが、桜の満開に合わせて日本に上陸し、スタジオで写真を取りながら私のポージングをチェックしてくれた。

ウォーキングはまだギクシャクしているが、シャッター音が響くと私の体は不思議と自然に動いて、シャイラに変わる。私の意識も体も分子となって、心地よい空気の中に溶け込み、漂っていく。

「なんでカメラが回るとこんなに変わるのかしら。私のレッスンの時とはまるで別人じゃないの」

撮影を後ろから見ていたティムさんが、ぶつくさ言いながら私を睨んだ。



受験も終わり、心晴れ晴れ浮き浮きして過ごすはずだった中学生最後の春休み。

実際はおじさんたちのレッスンがみっちり入り、入学式までに胃潰瘍になりそうだった。