兄貴がミカエルになるとき

そして幸ちゃんのにやにや笑いは車の中でもまだ続いていた。完全に何かおかしい。

「ねえ、本当に学校や本の話しかしなかったの? 普通他にも話すでしょ?」

トオ兄がバックミラー越しに幸ちゃんを見つめるけど本人は気付かない。

「他って?」

「例えば、例えばさ、普通は家族の話とかするじゃない」

「家族の話って普通する?」

「するする。うちのお母さんはすごい天然で、DKNYが好きなのにずっとドンキーだと思ってたとか、うちのお父さんは医者なのに血が怖いのーとか。本当になにも話さなかったの? 例えば、実はトオルさんみたいな素敵な兄貴がいるとかさ」

まるでサンマルクでの会話を知っているかのような追求ぶりだけど、まさか聞いてたわけじゃないよね、と表情を推し量っていたところで、ちょうど幸ちゃんの家の前に到着した。