兄貴がミカエルになるとき

「ただいま」と玄関で声をかけて家に上がりかけたところで、珍しくママがパタパタとスリッパを鳴らしながら迎えに出てきた。

「おかえり。トオルがお待ちかねよ」

それだけ言うと、なんだか楽しそうに「フフ」と含み笑いをしてまたすぐキッチンに戻っていった。

リビングのソファにはトオ兄と、そしてその膝にはいつものようにモンモンが体長一メートルの体を半身乗っけてウトウトしていた。

「ただいま、黄金プリン買ってきたよ」

コンビニの袋からひとつ取り出して渡したプリンを、トオ兄は「サンキュー」と言って受け取りテーブルに置く。

顔はいつになく不機嫌だ。

「幸男から電話があった。間待ち伏せしていた男子がお前を連れて逃げていったと。『まるで駆け落ちみたい、そうそう、映画の『卒業』みたいだったのよぉー』、って興奮してな」

さっちゃんの声色を真似ながら、ますます不機嫌になっていく。

モンモンがふぁーっと大きく口を開け、ひとつのんきなあくびを放った。