兄貴がミカエルになるとき

「ねえ、トオ兄ってさ、もしやマザコン?」

ふんっ、とトオ兄は椅子の背に背中を預け、足を組み替えながらいかにも呆れた様子で笑った。

「マザコンなんて、本当にお前は考えが浅いな。確かに俺はママを好きだが、マザコンじゃない。ママの守り神、ミカエルだ」

「へっ? ミカエル?」

「そうだ。ママが血だらけの腕に俺を包んで守ると誓ってくれたとき、俺はママのミカエルになろうと決めたんだ」

すごい。

恐れ多くも大天使様にマジで自分をたとえてしまうところがトオ兄らしい。

非常に豊富な語彙を操る男にもかかわらず、彼の中には「謙虚」という言葉も行為も欠落している。

「ということはさ、トオ兄は私にとってもミカエル様?」

トオ兄が片眉を上手に吊り上げ、私を見る。まるでハリウッド俳優みたいに上手にあげたその片眉に気持ちを奪われていると、徐々にトオ兄の顔が近づいてきて、まさに目と鼻の先で止まった。

「何故? 残念だが俺はお前のミカエルじゃない」

「何故? ってなんで!」

「何故? ってなんで?って、意欲がわかない。それにお前のミカエルなんて仕事が多すぎていやだ」

そうですか、そうですか。だいたい、天使さまが人を守るのって意欲とかが必要なんだろうか。