兄貴がミカエルになるとき

父さんはもう父さんじゃなかった。

狂っていた。

殺されるって思ったよ。

だから母さんの携帯からママにメールしたんだ。『母さんが死んじゃう』って。

ママはタクシーですぐに駆けつけてくれた。

うちに飛び込んできたときには視点も合わない父さんがナイフを振り回していて、刺された母さんは血が止まらないお腹を抑えながら床に倒れて怯えた目で父さんを見つめていた。

で、父さんはもう一度母さんに向かってナイフを振り上げた。

だから俺は咄嗟に母さんに覆いかぶさった。

Tシャツごと皮膚が裂ける音がした。父さんはすでにナイフで何を切りつけているのか、それさえもわからなかったんじゃないかな。

母さんを刺し、俺を刺し、それでもまだナイフを振り上げた。

もう一度刺された思ったとき、俺の背中でザクって音がした。

でもそれは俺の背中じゃなくて、俺の背中を覆ったママのシャツと背中が裂ける音だった。

その直後にドアから一直線に父さんの体に体当たりを食らわせ、ナイフを取り上げたのが、アイのしげるさんだ。

乱心の父さんはしげるさんの一撃で、なんで自分が倒れたかもわからない様子で床にひっくり返った。

そのあとポリスと救急車が到着して、母さんはERに向かったけど、出血多量で病院まで持たなかった。