兄貴がミカエルになるとき

まだそんなに遅くはないし、せっかくニューヨークに来たんだからカフェにでもいこうと誘われて、ホテルから数ブロック歩いたコーナーにあるシックなカフェに入った。

照明はほの暗い明るさまでに落とされている。席と席の間には十分なスペースがとってあるのでほぼ満席なのに、窮屈さは感じない。開け放たれたドアから風が店内を抜け、夜の空気を運んでくる。

東京とは違う、ニューヨーク独特の匂いがする。ニューヨークの人と街が醸し出す、ここだけの特別な匂い。

私たちは開かれたドアの傍のテーブルに座った。シンプルな木のテーブルと椅子は、よく見るとそれぞれ少しずつ形が違う。

ブロンドの髪をシニョンにまとめた、ちょっとヘップバーン似の華奢なウエイトレスさんがオーダーを聞きに来て、トオ兄はカシスシャーベットを、私はアイス・ラテを頼んだ。

「あの人、可愛いね」

「女優志望かもしれないな。ニューヨークのカフェにはそういう人がたくさんいるから。笑顔も半端なくきれいだ」

「日本だったらすぐにモデルとか女優になれそうだけど」

「そんなことはない。夢を叶える要素はそう簡単には揃わない。自分の力や努力だけじゃ揃えられない要素もあるし」

それは私が一番よく知っている。人生には自分が予期せぬ流れが訪れて、想像したこともない展開になることも。

今日までの自分の短い人生を俯瞰して眺めると、その光景は不思議すぎて現実のこととは思えない。