兄貴がミカエルになるとき

6時25分。

トオ兄はもうロビーのソファに座ってリチャードと話をしていた。
別に誘ったわけではないのだが、勝手に「僕も行くよ」と参加を決めたのだ。
6時半ジャストにママがフロントに降りてきた。
リチャードが「ハーイ」と言って、素早くママにハグをする。パパが見たらひきつるだろう。

「ハーイはいいけど、なんであなたがここにいるのよ」

リチャードの正面に立って腕を組み、ママはきれいに整えた眉をひそめる。

「だって今日は、イタリアンのプッタネスカを予約しておいてって僕に頼んだじゃないか」
「頼んだわよ。確か七時に三人で、ってお願いしたわよね? あなたの分まで入れたつもりはないんだけど」と冷たく応じるが、「ママは相変わらずだね」と、ウィンクする。

普段からこの程度のイヤミには慣れっこなので、全く動じない。

「まあいいわ。トオルも咲季も、好きなものいっぱい食べてね。今日はリチャードがご馳走してくれるそうだから。私はシャンパンでもボトルで頼もうかしら」

そう言って不敵な笑みを浮かべたママに、
「いいよ。なんでも頼んで。請求書はオフィスに回しておくから」と、リチャードも笑って応戦する。

毎回繰り返される痴話喧嘩のようなこの2人のやりとりは挨拶みたいなものなので、トオ兄はタイムキーパーとなって7分を超えたところで「じゃあ、そろそろ行こうか」と、2人を促す。

なぜ7分なのか尋ねると、
「特に理由はないけど、5分じゃ短すぎるし10分じゃ長いから、その間の7分になるんだよ」という、細かいんだか、適当なんだかわからない答えが返ってきた。