兄貴がミカエルになるとき

私はリチャードの、この屈託のなさが好きだ。

単純で楽天的で、歳が離れたおじさんなのに、それも一応「今最も人の心を揺さぶる世界の芸術家10人」の中に入っている有名なフォトグラファーだけど、気楽になんでも話せてしまう。

椅子に座ると、「いらっしゃーい」と、すでにビールが半分ほどに減っているプラスティックのカップを持ち上げて、リチャードはそのまま残りを一気に飲みほした。

「それにしてもトオルは本当にクールな男になったな。男の僕でも見惚れちゃうよ。さすが、僕の息子だ」

「息子?」

びっくりして口に運びかけたオレンジジュースのコップが宙で止まった。

「リチャード、そういう悪い冗談はやめてほしいんだけど。おい、咲季も本気にするな」

なんだ、冗談か。ほっとする。

「冗談だなんて、幼い頃に君を捨ててしまった僕をやっぱり恨んでるんだね」
と、リチャードが悲しげな顔を作る。

「捨てた!」

今度はオレンジジュースのコップを思わず落としそうになる。

「咲季、だからマジになるなって。リチャード、僕はあなたに捨てられちゃいないけど、その毎回繰り返されるひどい冗談は結構うらんでます」

トオ兄がマジでリチャードを睨む。