「透琉くん」
近づいて声をかけると、振り向いた透琉くんは、やっぱり笑った。
「菜々ちゃん……あっ、ごめん。探しに来てくれたの?」
「うん。どこ行っちゃったのかなあと思って。ぐんちゃん来てたけど、帰ったよ。仕事だって。あ、それと……」
言いかけて、慌てて口をつぐむ。
いけないいけない、岩崎悠大と会ったのは内緒だった。
「ん?」
「あ、えっと……ぐんちゃんから聞いた。ピエロの代わりに漫才して、子供たちすごく喜んでたって」
「ああ、うん。良かった、俺らも楽しかったから。けど、ちょっとネタがシモかったかなあ。一緒にいたお母さんが、教育上よろしくないって顔してた。三歳児でも爆笑してくれるような、一発ギャグがあったらいいなあって、昨日初めて思った。ここはオフレコでいいだろとか言って、群司、後輩の持ちギャグ堂々とパクってやがんの。でもそれが超ウケてさあ、なんか負けた気がしたんだよねー。後輩に」
「あ、それで……落ち込んでる?」
負けず嫌いな透琉くんらしい。
いつになく暗い表情を覗き込むと、透琉くんは目を丸くした。
「ううん、全然。僕チン、元気、ボッキッキー!……っての、どうかな?」
「……教育上よろしくないです」
沈むときほどおどけてみせる、透琉くんの癖は知っている。
そしてこんなとき、気の利いた励まし方を知らない私は、困ってしまう。
「……落ち込んでる……のかなあ」
透琉くんも困ったように笑った。

