彼はお笑い芸人さん



 何だ、結構いい人なんじゃないか。
 透琉くんのために、あの怖い高山さんとの間に入ってくれるなんて。

「とーるには内緒だよ。彼女にそこまでして助けてもらうなんて、男のプライドが傷つくからね。僕が仲裁するってのも、気に入らないと思うし」

 喋りに毒気はあるけれど、裏を返せば全部透琉くんのことを思っての言葉だ。
 自分も世間に色々言われて、嫌な思いをしているだろうに。


 岩崎悠大が去ったあと、いまだ帰ってこない透琉くんを探しに病室を出た。

 喫茶ルームは病棟の各フロアごとと、一階のロビーにある。
 フロアの喫茶ルームを覗くも、閑散としていて誰もいなかった。

 もう消灯が近い。
 ほとんどの入院患者は、もう就寝準備に入っている頃だろう。

 右足以外ピンピンしてる透琉くんは、毎晩夜更かししてるっぽいけど。
 入院中はネタ作りに集中できると言って、瞳を輝かせていた。

 本当に漫才が好きなんだ。
 好きなことをしているときの透琉くんは、最高に輝いている。

 一階のロビーに下りると、暗かった。

 緊急搬送口は病棟の方にあって、一般出入り口はもうとっくに施錠されていて、無人だ。
 非常灯と、並んでいる自動販売機の光が、夜の病院を雰囲気作っている。

 ずらりと並んだ待合椅子の一つに、透琉くんは座っていた。
 何をするわけでもなく、じっと味気のない光景を見つめている。

 いつも緩い笑みをたたえている透琉くんの、無表情は貴重だ。