彼はお笑い芸人さん


 ぐんちゃんは見開いた切れ長の瞳を、優しい形に細めた。

「ですかね。じゃあ、俺そろそろ行きます。アイツの分も働いて来ないと。今の話、俺から聞いたってのは内緒にしといてもらえますか?」

「うん、いいけど……何で?」

「知られたら嫌われるって、思ってんでしょーね。双眼鏡覗き見て、ラジオ体操姿に萌えてたとか、ド変態ですもんね」

 う、何気に酷い言いよう。
 確かにそれが透琉くんじゃなかったらと思うと、わりと怖い。


「じゃ、失礼します。それにしても、アイツ遅いですね。菜々香さんが来る頃には戻るって、言ってたんですけどねえ」

 ぐんちゃんが帰り、シンとした病室で、キャパ超え気味の脳内を整理する。

 透琉くんとの出会いは、一年前の展示会だと思っていたけれど。
 実はその前から、透琉くんは私のことを知ってたってことだよね? 

 ラジオ体操かあ。
 そう言えば、思い当たる節はある。

 いつだったか、うちの会社の古臭い社風を友達に笑われたという話を、透琉くんにしたときだ。

「でもラジオ体操は好きなんだけどなあ。新しい朝が来て、朝の空気を肺いっぱいに吸い込んで、青空を見上げるの」

「うん、俺も好き」

 透琉くんは即答で同調してくれて、ぴかんと晴れやかな笑顔をくれた。