「ですよね、菜々香さんは知るはずもないですけど。透琉が暮らしてた寮から、見えるんですよ。『稔幡工業』」
――え? ミノルハタコウギョウって……
「うっ、うちの会社!?」
「そんな近くでもないんですけどね。同居人に覗き趣味の変態がいて、寮に双眼鏡が置いてあったらしくて。ある朝、何気なくそれ覗いてたら、菜々香さんが見えたらしいです。会社の屋上で、ラジオ体操してる姿が」
ぎょぎょっ。マジですか。
知らぬ間に覗かれていたことにもビックリだし、しかもラジオ体操中とは。
すっごい恥ずかしいんですけど!
「みんな気だるそうにやってる中、一人だけ一生懸命やってる娘がいるんだって、アイツ楽しそうに話してました。ちっちゃいのにピンと姿勢良くて、うーんと伸びて、ぴょこぴょこ跳んで、可愛くて、見てて癒されるんだーって。毎朝、同じ時間に同じように眺めてたら、ふと我が身を振り返ったらしいです。あの娘に比べて、自分は何て堕落した生活してんだろうって」
嘘、ホントに……?
透琉くんは、あの展示会で出会うより前に、私のこと知ってたの!?
毎朝見られてたなんて、全然気付かなかった。
呆然とする私にぐんちゃんが微笑んだ。
「ってわけで、透琉を更生させてくれた菜々香さんにはホント感謝してます。菜々香さんのお陰で、今の透琉がいて、とーぐんがある」
「そ、そんな大袈裟な。私は何も……ラジオ体操は会社の決まりだし。それに、たまたまきっかけはそれだったかもしれないけど、透琉くんはきっと、何をきっかけにしてでも戻ってきたと思うよ。だって、あんなに漫才愛してるもん。ぐんちゃんのことも」

