「菜々ちゃん、とーるが悪さしたらおっさんに言うてきや。アイツ、今ノリに乗っとるからなあ。まあ多少は、大目に見てやりや。まだ若いし、まだまだこれからや。慰謝料たんまり取れるくらいにならな、別れたらあかんで。熟年離婚目指しや。嫁さんおらな何もできんようなジジイんなってから捨てられてみ、めっちゃ笑えんで。あら俺、大丈夫かいな」

「さあ、分からんで? あんた次第や」

 雪美さんが脅すように言うと、久遠さんがぶはーっと驚く。
 これぞ夫婦漫才。
 雪美さんは完全に一般人で、パン屋さんでの仕事しか経験がないらしいけれど、そうとは思えないくらい面白い。焼いてくれるパンはとびきり美味しいけれど。

 肝が据わっていて、美人で、面白くて、手料理が美味しい。
 雪美さんから学んだ「芸人妻の資質」を心の手帳に記し、晩御飯をご馳走になってから、久遠家を後にした。


 翌日の土曜から、ゴールデンウィークに突入。
 といってもうちの会社はカレンダー通りの営業だから、休みは土日、月、水、そして翌週の土曜から火曜だ。
透琉くんに休みはない。

 思い出週間なのになあ。

 ちょうど一年前のゴールデンウィークに、私たちは出会った。
 出会い方も強烈だったし、出会ったその日に交際がスタート。
 今思い出しても、あれは凄かったなあと思う。