ぐんちゃんはふっと笑って、視線をベッドに向けた。
 そこにいるべき透琉くんの姿はない。

「んで、説得しに行ったんですよ。目え覚ませって、怒りに。俺自信あったんですよね、アイツ連れ戻せる自信。アイツがどんだけ漫才が好きか、人を笑わせることが好きか、舞台に立つことが好きか、嫌ってほど知ってるから。それ思い出させたら、すぐ戻ってくるだろうって。考え、甘かったです。透琉、すっかり夜の世界に染まってて。どんだけ順応性あんだよって、マジ感心したし。すげー自堕落してんの見て呆れたし、もうコイツいーわって、ぶっちゃけ諦めたんですよね、あんとき」

 ええっ、そんな。
 じゃあ、もしそのままぐんちゃんが諦めてたら、コンビ解散してたかもってこと?

 そうなったら、私と透琉くんの出会いもなかった。

 ぐんちゃんとネタ合わせをした後の「ブラ男」姿のまま、たまたま透琉くんがあの展示会に来てくれたからこそ、私たちの衝撃的な出会いがあったのだ。

「俺、三日三晩悩みましたよ。一人でやってくのか、新しい相方探すか、他の仕事探すか。吐くほど悩んでたら、アイツ帰ってきたんですよ。さっぱりした、清々しい顔して。ごめん、まだお前の左空いてる?って」

 ぐんちゃんの左にはいつも透琉くんが立っている。お決まりのポジション。
 観客側から見ると、右が透琉くん、左にぐんちゃん。二人が揃って、「とーぐん」だ。

「すげー感謝してます」

 ぐんちゃんが真っ直ぐ私を見て、言った。

「透琉が戻ってきたの、菜々香さんのお陰なんです」

「えっ? 私、まだその頃透琉くんと出会ってないよ」