まさか本当だとは思いもしなかった。
 助かろうと思えば助かったのに、透琉くんはぐんちゃんの助けを拒絶して、わざと落ちる選択をしたという報道。

 それは単にウケ狙いだったとか、ぐんちゃんとの不仲説や、対抗チームの役者に汚名を着せるためだとか、散々な憶測が書かれている。

「……アイツ、マジで馬鹿なんですよ。咄嗟に、いざ自分の身が危ないってときに、フツーは考えないでしょ。人の肘のことなんか」

 ぐんちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「俺、昔野球で右肘やっちまってんですよ。日常生活に支障はない位には治ったけど、本気で球投げたりは出来ないレベルで。咄嗟にアイツ掴まえたときは、そんなことも忘れてましたけど」

「じゃあ……透琉くんは、ぐんちゃんの肘を気にかけて?」

「本人は、そうは言わないですけどね。馬鹿か、何で手え離したって怒ったら、俺に借り作りたくねーからって。俺だって作りたくねーっつの」

「あっ」

 借り作りたくない、で思い出した。

「え?」

「あっ、えっと……アパートの家賃。昔、ホストして透琉くんがぐんちゃんの分も払ったって言ってたの、思い出して」

「あー…あれ、貸しだったのかよ。透琉から聞いたんですか? ホストやってた話」

「うん。弟から噂で聞いて、透琉くんに聞いたら教えてくれた」

「そっか。菜々香さんには、内緒にして欲しそうだったから、黙ってたんですけど」

 ぐんちゃんは少しためらいがちに、

「バラシちゃおっかな」

 と悪戯っぽく笑った。