会社で顔を合わせた遠藤君は、まるで幽霊を見るようなびっくりした顔をした。

「小西さん……もう大丈夫なんですか? てっきり、今日はお休みだと思ってました。無理してないです?」

「あ、うん。もう全然。遠藤君のお陰だよ、昨日は本当にありがとう」

 会社休んじゃおうかなと、本当はチラリ思ったけれど。
 骨折してる透琉くんが、早朝に連れ去られて行った姿を見たら、私だけ楽するわけにはいかない気がした。

 遠藤君は苦笑して、

「貸しですよ」

 と言って、顔を少し近づけてきた。

「辻さんも、大丈夫でした?」

 小声で尋ねられ、返答に困る。
 大丈夫……なのかな?
 私が知りたい。


「そこの若者二人ぃ。こそこそ何やってんだあ。デキてんのかあ?」

 飛び込んできた威勢のいい声に振り返ると、営業課長が立っていた。

「お、おはようございますっ……すみません」

 どうやら給湯室に用事があるようだ。
 入り口を塞ぐようにして立ち話をしていたため、慌てて場所を空ける。

「いやあ、いーよいーよ。いいんじゃないの? 小西さん、遠藤はなかなか有望株だぞ。コイツで手え打っときなさいな」

「ですよね、課長。でも残念ながら、小西さんには素敵な彼がいらっしゃるんで、諦めます」

 遠藤君がさらっと返すと、菊池課長は目を丸くした。

「おやまあ、そうなの? それは存じなかったなあ」