彼はお笑い芸人さん


「うっせえ! 怪我人なら怪我人らしく大人しくしとけっつの! 相方とマネージャーが隣室にいる状況で、よくもまあ。お盛んですね!」

 珍しく眼鏡をかけていないぐんちゃんが、すごい勢いで捲くし立てる。
 美形が怒ると迫力が凄い。

 てか、えっ?
「相方とマネージャーが隣室に」って……永原さんもいるのー!?

 青ざめる私を横目に、透琉くんは叩かれた頭をぽりぽり掻いた。

「いやあ~それほどでもぉ~」

「褒めてねーよ。起きたんなら、早く来い。今後の打ち合わせ、すっぞ」

 そう言うとぐんちゃんは、透琉くんの頭を叩いた新聞を透琉くんに手渡した。

 そして私を見て、取り繕うように笑った。

「体調は……いいみたいですね。朝食、隣に用意してありますから。ゆっくり着替えてから、良かったらどうぞ。透琉はちょっと借りますね、仕事の打ち合わせがあるんで」

「あ、ハイ。どうもありがとうございます……」

 もはや敬語しか出てこない。
 透琉くんの上から、そろりと下りる。

「じゃあ、また後でね。菜々ちゃん」

 ぐんちゃんの肩を借りて、透琉くんが片足で立ち上がる。
 近くに転がっていた松葉杖を拾って、渡した。

 一つ一つの動作の大変さを実感する。
 透琉くんが大変そうな顔をしないから、いつだって私は呑気に構えていすぎる。