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 ふと気がつくと、目の前には透琉くんの後頭部があった。

 私が寝ているベッドに背中をもたれ、両足を投げ出して座っている。
 座ったまま寝てしまったようだ。

 その不自由そうな体勢もさながら、右足に嵌っている重たそうなギプスが気の毒だ。
 足、折れたとかさらっと言ってたけど。

 一体どうなって、こうなったんだろう。大丈夫なのかなあ。

“リハ中の事故で”

 そういうニュースはたまに耳にするし、怖いなあとは思っていたけれど。
 透琉くんの身にも起こりうることだという認識は、正直あまりなかった。

 透琉くんの仕事といえば、舞台に立って喋る仕事、漫才師というイメージでずっといたけれど、今の透琉くんはもっぱらバラエティ番組でワイワイやっている。
 自虐をネタにしたり、体を張って取る笑いも多い。

 だからこんな日が来るかもしれないと、覚悟していなくちゃいけなかったんだ。本当は。

 何が起きないとも限らない、テレビの現場。

 笑いを追及するあまり、行きすぎた演出や無茶ぶりもあるだろう。
 罰ゲームで火傷したり、相撲大会で骨折したり、笑いと危険は常に背中合わせなのかもしれない。

 愛しい人が傷ついて、笑われる。
 ああ、そうだ。それも嫌だったんだ。

 透琉くんが出ているバラエティ番組を、段々観なくなった理由。

 美人タレントと仲良くしている姿を見てモヤモヤするだけじゃなくて。
 軽い扱いを受けて笑われている姿を見るのも、嬉しくはなかった。

 みんなが笑っていても、私は笑えない。