彼はお笑い芸人さん



 約束の時間が迫り、ドキドキする気持ちはそわそわに変わり、それからしばらくしてモヤモヤに変わった。

 遅い。何してるんだろう。
 仕事が押している……って可能性はいつもならあるけれど、今日は……

“夕方五時以降は、絶対に、何があっても仕事しねーぞ”

 って言ってたのに。
 ぐんちゃんも永原さんもOK出してくれたって、言ってたのに。

 仕事が終わった後、何かあったんだろうか。
 それともやっぱり仕事が押しているのか。

 今日の予定は確か、スタジオで番組のリハーサルだ。
 バラエティ対戦ゲーム番組の。大まかなゲーム進行をリハするだけだから、余裕って言ってたのにな。

 約束の時間から一時間が過ぎても、透琉くんから連絡はない。
 メールを入れてみたけど返信はない。

 追加で頼んでちびちび飲んでいたコーヒーも空になり、さすがにこれ以上は居座れない。
 のんびりしたカフェならともかく、慌しいビジネス街のコーヒーショップだ。

 とりあえず場所を移動して待とうと席を立ったとき、

「もう行きます?」

 目の前に現れたのは、遠藤君だった。

 思わず目を丸くした。

「遠藤君、何で……」

「外から見えたから。あれから一時間半ですよ、びっくりしました」

 驚きとともに同情めいた色を浮かべ、遠藤君は訝るように訊いた。

「彼、まだ仕事ですか?」

「……うん。多分」