――本当に好きなことは、仕事にしない方がいい?
「どうして?」
「仕事にしたら、楽しくなくなるからです。好きなことはお金を払ってするものであって、お金を貰ってするものじゃないって、誰かが言ってたの聞いて。ああ、その通りだよなって思いました」
うむう。一理ある……のかな。
好きなことを仕事にするって、幸せなことだと思う反面、逃げ道を作らない選択だとも思う。
「……そろそろ行きますね。無駄話しちゃってすみません」
スマホの画面を確認して、遠藤くんが席を立つ。
「あっ、キャンドルアート展のチケット、ありがとうね。今日、これから覗きに行く予定なんだ」
「あ、本当ですか? ありがとうございます。和希、喜びますよ。僕も仕事終わったら、顔出しに行く予定なんですけど……なるべく遅めに行きますね。小西さんのデート現場見るの、辛いんで」
「そんな……」
そんな風に言われると、胸がチクリと痛む。
だけど否定ができないことに、これから落ち合うのは透琉くんだ。
“じゃあ是非、彼氏と”
チケットをくれたときに遠藤君が言ってくれた言葉。真に受けて、良くなかったのかもしれない。
せっかく何枚もくれたチケットを無駄にするのも申し訳なくて、じゃあちょっと覗いてみようかなと思ったのだけど。
「冗談ですよ。是非彼氏とって言ったの、僕だし。そんな素直に困った顔しないでください。可愛くて困るじゃないですか」
遠藤君はくすっと笑って、颯爽と出て行った。