彼はお笑い芸人さん



「立ち話も何だし。車で話そ?」

 そう言って、透琉くんは困り顔で笑った。

「菜々ちゃん、まだ怒り足りてないでしょ。全部、ぶちまけてよ。菜々ちゃんが言いたいだけ言ったら、俺の話も聞いて? お願いします」

 頭まで下げられて、ばつの悪さを感じる。
 話も聞かずにみんなの前でブチキレてしまって、本当に大人げなかった。

「……こちらこそ、お願いします」

 まずはちゃんと話し合おう。それからだ。

 エスコートされて、ベンツの助手席に乗り込む。
 私を乗せた後、運転席に乗り込んだ透琉くんが慎重に車を発進させた。

 自分の車を持っていなくても、透琉くんの運転は手慣れている。
 先輩と移動するときには、運転手役をすることが多いからだろう。

 我が家方面へ車を走らせながら、透琉くんが言った。


「ごめんね。笑イト、菜々ちゃんに観られると思ってなかったから。今日の予定は外せなかったし」

 んん?
 ごめんねのポイントが外れてる気が……。

 観ないという約束を破った私も悪いとは思うけど。

「観ないって言ったのに、ごめん。女子高生が話してるの聞いて、気になって。今日の予定も、先に入ってたのは知ってるから、そういうことじゃなくて。あのドッキリ……もしドッキリじゃなかったら、あの娘と寝てた? 家まで行って、あんな雰囲気で、ヤらないわけないよね?」

 ずばり訊くと、透琉くんはキッパリ答えた。

「ヤらない。菜々ちゃんとしか、そういうことはしない。付き合ってるって、そういうことでしょ」

 正論、だけど矛盾してる。

「じゃあ何で、あんな……あんなイチャイチャしてたの? お持ち帰りされて、どうする気だったの? あんな思わせぶりな態度取ってて、直前で『彼女としかシない』って言うつもりだったの?」