どうしよう。やらかしてしまった!
怒りに任せて暴言吐いて、キャベツ投げつけて帰るなんて、いい大人がすることじゃない。
しかも久遠さんち、とーぐんの大先輩の家で。
先輩、同僚、後輩がいる、和気あいあいお酒の席で、痴話喧嘩って……。
透琉くんの面目、丸潰しちゃったよなあ……ううう。
いくらムカついたからって、あれは良くなかった。
どうしよう、あの場のフォロー……透琉くんが笑いに変えてくれたかな。それかぐんちゃんが。
走ったら息切れして、トボトボ歩きながら反省中。
駅に向かう道中、後ろから追い越した車が、少し先で幅寄せして停車した。
その不審車には見覚えがあった。
真っ青なメルセデス・ベンツ、ワンボックスタイプは、久遠さんのセカンドカーだ。
ハザードランプをチッカチッカさせる車から降り立って、こっちに向かってくるのは透琉くんだった。
神妙な面持ちで目の前まで来て、
「乗って。送ってく」
と言った。
「透琉くん、お酒……」
「飲んでないよ。菜々ちゃんを送り届けるっていう大事な役目がある日に、酔えないよ」
笑いもなく、真剣なトーンで告げられて、言葉に詰まる。
そう言えば、乾杯のときもグラスに口付けたくらいで、透琉くんのビールは減っていなかった。
今更ながら気付くけれど、透琉くんの酔っ払った姿を見るのは、うちに来たときだけだ。
外ではほとんど飲まない。
賑やかすのが上手だから、周りと同じように酔っ払って見えるだけで。
そういや、笑イトのドッキリ合コンでも、透琉くんは酔っていなかった。
飲むと勃たないからとか何とか言って、回ってくるお酒は全部ぐんちゃんに飲ませていたような。

