彼はお笑い芸人さん



「昨日の笑イト、透琉さんスペシャルでしたねー。超ウケました。だけどあれ、菜々香さんムカついたでしょ。俺も正直、今日ムカついてますよ。こんな可愛らしい彼女さんがいるなんて、ズルいっすよ」

 口火を切ったのは、後輩芸人の安達くんだった。
 酔っ払ってきたのか、目が据わっている。

「大体、芸人がモテるって何なんっすか。とーぐんの出待ちが凄くて、帰り混雑って迷惑っすよ」

「んなこと言われてもなあ」

 ぐんちゃんが息を吐いた。

「俺らだって、好きでイケメンに生まれてきたわけじゃないし。安達くんみたいに、黙ってても笑いが取れるような顔っていいよね」

「代わってください。言っときますけど、別にこの顔でも笑い取れませんから。ねー、菜々香さん」

 なぜか私に同意を求めてきた安達くんが、黙ってじっと見つめてくる。
 真顔だと太い眉毛が目立って、小鼻がピクピクしてる。

「……っ」

 笑っちゃダメだと思うと余計に可笑しくて。
 つい吹き出すと、安達君が喚いた。

「よっっしゃあ、勝ったあああ! 透琉さんと別れて俺と付き合ってください!」

「何でやねん!」
「渡すか、ボケ!」
「笑い取れてるし!」

 すかさず口々にツッコミが入る。
 聞き逃しそうになったけど、渡すかボケ!と言ってくれたのは透琉くんだ。

 思わずキュンときて、小さくにやけてしまう。
 怒ってるんだけどね。

 そうだ、ドッキリの件をはっきりさせるまでは怒ってるんだからね。
 楽しい雰囲気に流された挙句に、うっかりときめいてる場合じゃない。

 はっ、もしやこれが狙いで焼肉会に呼ばれたとか?
 そうは問屋が卸さないぞ。