彼はお笑い芸人さん



 それにしてもお腹空いたなあ。
 チラリ時計を見やると、九時が近い。

 久遠家の大きなダイニングテーブルには、焼肉の準備が整っている。
 霜降りのお肉たちが大皿に綺麗に整列して、早く焼いておくれと待ち構えている。
 生ビールサーバーも準備万端。

 定期的に開かれているらしい、久遠家の焼肉会。

「凄い量ですよね」

 十人前はありそうな肉量に感嘆の声を漏らすと、雪美さんが言った。

「男、六人やからなあ。こんくらいは食べるやろ」

「えっ六人って……来るの、とーぐんの二人だけじゃないんですか?」

「今日は、とーると群司と、その他若手が三人や言うてたで」

 うわおう……聞いてないよー。
 私を気軽に呼ぶくらいだから、てっきり久遠さん夫妻ととーぐんだけだと思ってたのに。

「私、場違いじゃないですかね」

「だいじょぶ、だいじょぶ。ただの飲み会みたいなもんやし」


 雪美さんが言ったとおり、間もなく男六人が帰ってきた。
 久遠さんと、とーぐんの二人、とーぐんの同期芸人さんが一人と、後輩芸人さんが二人。

 ノリのいい挨拶を交わして、乾杯をしたあとは、焼肉しながらビールを煽る。
 ただの飲み会と言えばそうだけれど、ただの飲み会よりも数段面白いのは、やっぱり芸人さんの集まりだからだろう。
 ちょっとした会話が面白かったり、話が盛られていたり、ツッコミがびしびし飛び交う。

 やっぱり私、場違いだったかなと感じつつも、みんなが上手に話を振ってくれるお陰で楽しい……のは表面上だけども。
 透琉くんに浮気未遂の真相を問い詰めるために来たはずが、すっかり飲み会の一員に成り下がっている。

 それにしても楽しそうだよなあ、透琉くん。なんて屈託がないんだろう。
 何で屈託がないんだろう?

 私、怒ってるんですけど。