彼はお笑い芸人さん


「菜々ちゃん、ええなあ。可愛いっ」

 雪美さんは満面の笑みを見せると、バシっと私の肩を叩いた。

「だーいじょうぶ。ドッキリやなかったら、あんなん引っかからんて。あれヤラセやわ」

「……え、そうなんですか?」

「ヤラセ」ってことは、最初から騙される段取りで、台本があったってこと……?

 ドタバタとした、成り行き任せの撮影だったように見えたけれど。
 仕掛け人たちと透琉くんのやり取りも、すごくリアルで自然体だった。

 全部ヤラセ?

「そうやと思うで。ヤラセ言うたら語弊があるなあ。ほんまのドッキリやったけど、途中で気付いたんちゃう。とーる、察しがええから。撮られとん分かって、騙されたんやと思うで。カメラ回っとったら、中断させられん思うし、笑われてナンボや思うやろ。プロの芸人やもん」

 雪美さんの言葉にはっとする。
 笑イトの動画を見て、透琉くんに感じた違和感。

 あれは「視聴者の目」を意識した、芸人の辻透琉だったからだ。
 ルックスがいいからと自惚れている、調子に乗っている若手芸人。

 本当の透琉くんは、ルックス売りされることが嫌で、現状には満足していない。
 そんな不満はおくびにも出さず、テレビではチャラい馬鹿キャラをやっているけれど。

 ぐんちゃんが真面目なインテリ(風)キャラだから、対比としての役どころを心得ている透琉くん。


「まあ訊いてみ、本人に直接。もうすぐ帰って来るやろ」

 今日のとーぐんは、ハウンダーさんと仕事で一緒らしい。

 朝に動画を見たあと、「昨日の笑イト観ちゃったんだけど」というメールを透琉くんに送ったら、かつてない速さで返ってきた返事が

「仕事終わったら、久遠さんちで雪美さんと待ってて。会って話すまで、怒らないで」

 だったため、焦れ焦れと待機中。