彼はお笑い芸人さん



「菜々香」という名前の漢字からして、菜の花が香る春生まれと勘違いされることが多いけれど、実は七月生まれ。七月七日で、ななか。
 それに好きな漢字を充てたらしい。名付け親は父だ。


 まだ一ヶ月以上先だから、七月七日の予定は分からないけれど。
 去年は丁度日曜日で、透琉くんと遊園地デートした。

 遥か昔みたいに懐かしく思う。楽しかったなあ。

 アトラクションを巡って、写真いっぱい撮って、お互いのフラッペを半分こしあって、夢の国で夢のような時間。隣には王子様みたいな透琉くんがいて、ずっと笑わせてくれた。

 今年はそうはいかないことだけは、確かだ。

 まず月曜だから仕事がある。

 いや、例え日曜でも今年の透琉くんは一年前とは違って多忙だ。なかなか会えない。
 なのに、合コンには行ける。

 それって、ホントどういうこと?



*****



「最近、調子に乗ってますよね?」


 憤慨して同意を求めると、雪美さんは苦笑した。

「笑イト観んといてって電話してきたん、あの子。観て言うてるみたいなもんやんなあ。何の前フリやねん」

 前フリという言葉が出てくるところが、芸人の奥さんらしい。

「絶対しないでね=してして、面白いリアクションするから♪」っていうのが、暗黙のお約束ってことで。
だけど透琉くんのアレは、さすがに違うと思う。

「けどまあ、ドッキリやろ。とーるも仕事やしなあ」

 長い黒髪をシュシュで一つ纏めにしながら、雪美さんが言った。

「ドッキリで良かったですけど。ドッキリじゃなかったら、あの後って思ったら……もうウキーって叫びたい気分なんですけど」

「ええよ、叫んで」

「ウキーっ……」

 むむう、なんか違う。
 やっぱり海に向かって「バカー!」がいいのかな。