笑イトの件でへこんでいる自覚はあるけれど、それを仕事に持ち込んでいるつもりはなかった。
 慌てて笑顔を作る。

「ううん、何も。今日は棚卸しで残業かなあって、ちょっとブルーだったけど。遠藤君が手伝ってくれて、早く終わりそう。ありがとう」

 それは本当に感謝事項だ。
 意識せずにを意識して瞳を合わせると、今度は遠藤君がふいと視線を俯けた。

「棚卸し、バイトでよくやってましたから」

「そうなんだあ。棚卸し専門のバイト?」

「まあ色々ですね、派遣で。効率良けりゃ、何でもいいって感じで。……俺、後こっち数えますんで、小西さんは終わった分の合算していきます?」

「あ、はい……そうします」

 教えるはずが、逆に指示されている構図にはたと気付く。
 先輩としていけてないよなあ。

 私はどうしてこんなに効率が悪いんだろう。

 頭の回転が遅いのか。手先が不器用だからか。
 ぼんやりしているのかな。

 だから透琉くんが合コンしていても、浮気未遂しても、気付けなかったのかな。

 気付かないままだったら良かったのかな。

 鬱々としながら、手元の数字を電卓に打ち込んでいく。
 遠藤君が数えてくれた残りの数字を加算して、任務完了。


「お疲れ様。やっぱ二人だと早いねー」

「お疲れ様です。なんか今日、蒸し暑いですね」

 棚にかけていたスーツのジャケットを手に取り、遠藤君がぼやいた。

「あ、夜から雨降るって。湿度高いよね」

 そういえば、もうじき梅雨の季節だ。
 梅雨入りはまだ先だろうけど、今日の夜から週末にかけて、天気予報は雨マークが並んでいた。