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「小西さん、こっちの棚終わりました」

 かけられた声にはっとして振り向くと、ワイシャツを腕まくりした遠藤くんが立っていた。

 毎月末は倉庫の棚卸し。

 本来営業の仕事ではないけれど、新入社員の遠藤くんには一通りの仕事を教えろと上からお達しが出ている。

 といっても、商品の在庫数を数えて表に記していくだけの単純作業だから、手際のいい遠藤くんには朝飯前みたいだ。
 予想を遥かに上回るスピードで声をかけられて、焦るのはこっちだ。


「えっ、もう終わった!? ちょっ、ちょっと待ってね。こっち、あとちょっと……」

「じゃあ一緒に。僕、こっちの列数えますね」

 さっと隣に来て、手伝ってくれ始める遠藤くん。どっちが先輩だか分からないなあ。

「あ、ありがとう……」

 広い倉庫に二人きり。ちょっと落ち着かない。


“実は僕、小西さんのこと好きみたいなんですよね”

 あのコーヒーショップでの会話以来、やっぱり意識してしまって駄目だ。
 普通に、今まで通り接しようと心がけるものの、こうも距離感が近いと息が詰まる。

“頭の片隅にでも覚えといてもらえますか。僕が、小西さんを好きだってこと”

 遠藤君の望みはひどく一方的で、それでいて控え目だ。


「何かありました?」

 手にしたクリップボードに数字を書き込みながら、遠藤君がぱっと顔を上げて私を見た。

「え?」

「今日、元気ないですよね。何かありました?」