透琉くんが、バラエティの仕事を「面白くない、笑えない」と自己評価するのは初めて聞いた。
 お笑い以外の付加的な仕事はともかく、人を笑わせることにおいては、絶対の誇りと自信を持っているのが、透琉くんなのに。

 よほどウケなかったのか。
 落ち込んでいても明るく振舞う透琉くんに、

「うん、分かった」

 さっぱりした返事をすると、ほっとしたような声が返ってきた。

「良かったあ。菜々ちゃん、愛してるから。笑イト観ないでね」



 透琉くんが、そこまで『笑イト』を観てほしくなかった理由は、翌朝判明した。

 通勤のため、いつもの乗車駅で電車待ちしていたときのことだ。


「ねえねえ、昨日の『笑イト』観たあ?」

 すぐ隣にいた女子高校生たちが始めた会話に、耳がピクリと動いた。

「観た観たあ♪ とーる、笑えたよね~!」

 あれっ、透琉くんあんなに「笑えない」って言ってたのに。
 好評で良かったと胸が躍ったとき、一人の女の子が言った。

「え~、やだよ。女好きって、キャラかと思ってたのに。リアルでタラシってショック~。とーる好きなのに」

 え?

「けど、あんな、ファンにほいほい手え出す感じなら、うちらでもイケんじゃん?って思わんかった?」

 何……の話……?

「え~、引っかけ役の娘、レベル高かったじゃん。あんくらい可愛かったら、希望あるってことじゃん?」

「あるある。てか人生に希望ある」

 女子高生たちの鈴のような笑い声が響く中、意識が飛ぶような感覚に陥った。

 脳みそポーン。