「はい、熱いうちにどうぞ」
箸立てから取ったお箸をさっと渡してくれて、調味料類も取りやすい位置に透琉くんが置き直してくれる。
本来彼女がすべきことを、私がしようと思ったときにはすでに透琉くんがしてくれているのは、毎度のこと。
食べ始めて少したった頃合で、透琉くんが話を差し戻した。
「ドラマの仕事……どうだろうなあ。撮影時間、結構拘束されるし。今以上に会えなくなっても、菜々ちゃんは平気?」
真剣なトーンで訊かれて、迷いが生じる。
平気……なわけない。
今でさえ、会いたくて堪らないのに。けど……
透琉くんの、とーぐんの将来のために、仕事の幅を広げるのは大事なことだ。
「淋しいけど、ドラマの撮影って三ヶ月くらいだよね。それくらい、辛抱できるよ」
答えると、透琉くんはふうっと息を吐いた。
ほわっと中華どんぶりから立ち上った湯気が漂う。
「……そっか。じゃあ、そのドラマが恋愛もので、男女の絡みシーンがあったら? 役どころで、女優さんとイチャつくかもしんないけど、それも大丈夫?」
えっ、そうなの!?
そんな可能性は頭になかった。ぐんちゃんも言ってなかったし。
けど、そうか。そうだよね。ゴールデン枠の連ドラといえば、大概恋愛ものだ。
透琉くんが女優さんと絡み……うううう、考えただけで胸が痛い。
けど、
「仕事だもんね、演技だもんね。大丈夫だよ」
笑顔で、自分自身に言い聞かせた。
つまらない嫉妬をして、透琉くんの足かせになるわけにはいかない。
透琉くんが大きな夢を叶えるために。
ステップアップを促せるくらい、大人になりたい。
雪美さんが言うような、港みたいな女でいたい。
透琉くんが安心して、帰り着ける場所でいたい。

