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 モンキー辻化したあとの透琉くん、ただいま賢者タイム。
 煩悩から解き放たれた、清々しい爽やかな顔をして、テキパキと身なりを整えていく。

 この切り替えの早さもムードがないけど、今日は時間がないって最初から言ってたもんな。

 それに別に、冷たいとか素っ気ないわけじゃない。
 優しい愛の言葉をくれるし、丁寧に扱ってくれる。ただすごく手際がいいだけだ。

 それは透琉くんの職業柄なのか、元々女の扱いに長けているからなのか、多分どっちも。

 とーぐんの人気は、正直言って、透琉くんとぐんちゃんの容姿によるところが大きい。
 かっこ可愛い、ロールキャベツ男子の透琉くんと、クールかっこいい、ストイックな眼鏡男子のぐんちゃん。
 二十一歳という若さもあって、若者に支持されている。

 ティーンズ向け雑誌で特集されたし、今年度の「芸人男前ランキング」はとーぐんの二人でワンツートップじゃないかと予想されている。

「かっこいい」と騒がれるのは、透琉くんからすると不本意みたいだ。
「面白い」という評価が先にあっての「かっこいい」なら嬉しいけど、「かっこいい」が先行してる現状は面白くないらしい。

 だけど所属事務所と相方のぐんちゃんは「とにかく今は名前と顔を売ること」が大事だと考えているらしく、ファッショングラビアや恋愛相談など、全然お笑いに関係ない仕事もすすんで受けているのが現状。
 そんな仕事したくないと言う透琉くんと、ワガママ言うなと怒るぐんちゃんのやり取りは、ここ最近顕著だ。


「わっ、なんと。世間はもうすぐゴールデンウィークとやらじゃない?」

 帰り支度を進めている透琉くんが、手に取ったスマホを見て、心底ぎょっとしたように言った。

「もう四月が終わんのか。気づかんかった、マジで。菜々ちゃん、ごめん……」

 しゅんとした顔で、私を振り返る。

「いいよ、大丈夫。透琉くん仕事だろうなって、聞かなくても思ってたし。うちの会社、カレンダー通りの営業だから、前半の休みは飛び飛びだし、後半は実家帰るって決めてあるから」

 実家はそう遠くないけど、連休でもなければそうそう帰らない。
 一年前の就職を機に一人暮らしを始めて分かったのは、食事を作ってもらえるありがたさだ。
 当たり前だと思っていた実家での暮らしも、今思うと随分甘えていたなあと思う。

「そっか、実家帰るんだ」

 ほっとしたように透琉くんが言ったとき、ぐんちゃんの肉声でスマホが鳴り出した。

 今月からダウンロード配信を開始した、とーぐんの着ごえだ。
 二パターンあって、透琉くんとぐんちゃん、それぞれ相方の声から始まるパターンを設定している。
 どんだけ相方ラブだよ、と突っ込まれるのを狙っているのは内緒だ。