彼はお笑い芸人さん

しみじみと感慨深そうに言われ、くすぐったい気持ちになる。

好きな人に惜しみなく褒めてもらえるのは、恥ずかしいけど嬉しい。
けど、そこまで褒めてもらえるような心当たりがないから、ちょっと居たたまれない。

「下積み時代を支えた彼女」と言うには、不甲斐ないしなあ。

何年も苦労を共にしたというならともかく、透琉くんが「売れない芸人さん」をやっていたのは二年間で、その内の半年しか私は知らない。
大変だったとか、苦労した記憶もない。売れる前の透琉くんと一緒にいた日々は楽しかった。愛しかった。

あの頃くらいにとは言わないけれど、今よりもう少し暇になってくれたらいいのになあと願ってしまう。
透琉くんの活躍を手放しで喜べない、駄目ダメな彼女だというのに。

“菜々ちゃんあっての俺だし”

少しの迷いもなく、言い切ってくれる透琉くんは優しい。
その信頼に報いたいし、透琉くんの夢が叶ってほしいとも勿論思う。

と思って、改めて感じるのはプレッシャーだ。
ぐんちゃんと永原さんに頼まれたこと、ちゃんと実践できるかなあ……。

透琉くんがドラマに出る気になるようにっていう、例のアレ。


“ドラマに出るなんて素敵ーとか、かっこいーとか言って褒めちぎるか。逆に対抗心を煽るとか。ドラマ出てる、他の芸人褒めて。あ、シクハイの幸也さんとかいいかも”

ぐんちゃんの指令はやけに具体的だ。
こう言えば、透琉くんはこうっていうのが、分かってるんだろうなあ。流石、幼馴染み。