電車に揺られながら、遠藤君の言葉をぼんやり反芻した。
“もしも、彼氏と上手く行かないフラグが立ったときのために、頭の片隅にでも覚えといてもらえますか。僕が、小西さんを好きだってこと”
どうして好きになったんだろう、私のこと。
“入社したときから、可愛いなとは思ってたんですけど。日に日に、気になる度合いが強まって”
聞いたときはびっくりしすぎて実感が湧かなかったけど、うわあ恥ずかしい。
可愛いって言われて、嬉しくない女子はいないよ。けどやっぱり困る。
明日から顔合わせるの、意識しちゃうかなあ。
いや、でも普通に行こう。私は私の道を。
“彼氏と上手く行かないフラグ”が“もしも”立つようなことがあっても、それは私と透琉くんの問題だ。
二人で向き合うべきことには、ちゃんと二人で向き合いたい。
そう決意を新たに帰宅して、さて晩御飯の準備をしようと思ったとき、透琉くんから電話があった。
「菜々ちゃん、お疲れ様。もうご飯食べた?」
「お疲れ様、透琉くん。ご飯、今から作るとこだよ」
「あっ、じゃあさ。ラーメンでも食べに行かない? 鳳宝軒。後二十分くらいでそっち行くから、出る支度して待ってて。で大丈夫?」
相変わらず、テキパキとした段取り。
口ぶりからして、今日は特に時間がなさそうだ。
鳳宝軒というのは、うちから徒歩十分圏内にある中華屋さんだ。
近い安い早いで、味は庶民的。
立地が微妙な上、商売っ気も微妙で、一見さんが入りにくい雰囲気のお店だから、常連になってしまえば行きやすい。
透琉くんがほとんどうちに住んでいたような頃には、二人でよく行った。
けど、時間がないんなら。
「うちご飯でもいいよ。待ってる間に作っとくし」
一瞬間があってから、透琉くんが答えた。
「たまには外で、ご飯食べるだけってのもいいかなと思って」
「そっか、うん。じゃあ出る支度して待ってるね」

