「十五分でいいですから。ほら、十五分早く会社に戻ったとこで、その分早く帰れるわけじゃないじゃないですか。無駄に持て余すと思ったら、その十五分をもっと有意義に使いたいんですよね。仕事のことで、小西さんに聞いてもらいたいことがあるんです。悩んでることがあって……」

 単に時間潰しに付き合って欲しいというわけでもないらしい。
「仕事で悩み」と聞いて、胸がざわついた。

 新入社員が五月病というのはありがちだ。

 ちょうどゴールデンウィーク明けというのは、意欲がプツリと切れる頃だ。
 憧れを抱いて飛び込んだ新しい世界で、理想と現実との壁にぶつかって、鬱になる頃。

 悟り世代の申し子、遠藤くんに限っては大丈夫だと過信していたけれど、実はそんなこともないのかもしれない。


「私で聞ける話なら、いくらでも」

 悩みの度合いによっては、私じゃ力が及ばないかもしれないけれど。
 自信なく答えると、遠藤君はほっとしたように言った。

「ほんとですか。ありがとうございます。小西さんじゃないと、他の人には言えないことなんで」

 意味深な言葉にますます胸がざわつく。
 他の人に言えないことって、何だろう?

 実はもう会社辞めたいとか?

 重大告白されたら、どうしよう。ドキドキする。
 ちゃんと引き留められるかな、責任重大だ。