「菜々香さんにこんなこと相談をするのは筋違いだと分かってます。でも、菜々香さんにしかお願いできないことなんで……透琉の仕事のことなんですが」

 そう前置きとともに知らされたのは、透琉くんにドラマ出演のオファーが来ているということだった。

 今秋、1クールでの放映が予定されているらしい、民放の連続ドラマ。
 学園もので、男性教師が主役。その教師が受け持つクラスの一員として、人気急上昇中の「とーぐん」の辻透琉を抜擢したいらしい。

「……凄いですね」

 凄すぎて現実味が沸かない。透琉くんが俳優デビュー? 

 二十歳過ぎての高校生役にしっくりこないけれど、透琉くんの学生服姿を想像してみたらしっくりきた。
 似合うだろうなあ。

 制服姿は単純に見てみたいと思うけれど、ドラマで透琉くんが観たいかといったら、どうだろう。


「透琉くんは、出たいって言ってます?」

 私の質問は核心を突いたらしく、永原さんは渋い顔をした。

「そこなんですよー。こんな美味しい話なのに、透琉は嫌だって言うんですよ。小西さん、何とか言ってやってくださいよ」

「え? 私がですか!?」

 目を丸くすると、ぐんちゃんも畳み掛けるように言ってきた。

「アイツ、菜々香さんにおだてられるの弱いでしょ。猿も木に登るじゃないですか。透琉をその気にさせられるのは、やっぱ菜々香さんしかいないなあって思うんですよ。俺らが言っても、よけい意固地になるだけで。ここは一つ、菜々香さんのお力を貸していただけませんか?」